酒井ヒロキ
緑いっぱいの穏やかな空気に包まれた兵庫県・六甲山を舞台に、スローリー&リラクシンな音楽フェス『ROKKO SUN MUSIC』が今年も開催に。例年になく晴天に恵まれた今回、WELCOME ACTとして登場したのはおなじみの酒井ヒロキだ。人懐っこいキャラクターを投影したかのように表情豊かなボーカルで、一気に会場をひとつにさせる彼。「毎年歌わせてもらってますが、こんなに晴れているのはなかなかない。皆さんの運がそうさせたんやでぇ~」と、MCでも茶目っ気たっぷりに盛り上げていく。さらには、ウキウキ感あるメロディに乗せた『ROKKOSUN』の自作テーマソングを挟みつつ、草木のざわめきが生むリズムや、風が雲を流すかすかな音までも味方につけ、会場の魅力を存分に教えてくれる。ラスト『ドリーマーズソング』ではシンガロングとたくさんのビッグ・スマイルを生み出し、イベントのオープニングを高らかに飾ってくれた。
sleepy.ab
酒井ヒロキが賑やかな余韻をステージに残していった中、続いてはsleepy.abがオンステージ。メンバーチェンジなどバンドの大きな転換期を経て、スリーピース+サポート・ドラマーの体制で登場した彼ら。1曲目『四季ウタカタ』が鳴り始めるや、水の中へトプンと入ったような穏やかなトリップ感をもたらしてくれる。浮遊感をたたえながらも壮大なサウンドメイクの『なんとなく』や、おぼれそうになるほどの美しいアンサンブルを奏でる『sonar』と、気付けばすっかりオーディエンスは彼らのトリコに! 野外で味わうsleepy.abはライブハウスで聴く以上にファンタジックで、どこか神々しい。音の洪水に身を任せることの何とも心地よいことか、さながら夢物語へ誘うようなワクワク感と少しの恐怖がスパイスだ。さらに耳を占拠するエモーショナルな『euphoria』、ノスタルジーを呼ぶ『ねむろ』まで、5曲に渡る音楽旅行にピリオドが打たれた。メロディに肩を揺らしたり、耳をすませてじっと聴き入ったり。音に入り込むオーディエンスの表情は、sleepy.abがかけた音楽のマジックが本物だった何よりの証なのだろう。
bonobos
サウンドチェック時から本域で楽しむオーディエンスが多数と、早くも大盛り上がりとなったのはbonobosだ。その前フリもあったため、初っ端の『ICON』からいきなりのクライマックス・ムードに! ファンキーなキーボードの音色でお祭り状態の会場は、『ROKKO SUN MUSIC』ならではのハッピー感で満タン。さらに鉄板の1曲『THANK YOU FOR THE MUSIC』を会場全員でクラップすれば、まさに楽曲で描いた世界そのものが出現! 大人も子供もごちゃまぜに音楽を楽しむ、まばゆい光景が広がっていく様は何とも圧巻だ。かと思えば、続く『あなたは太陽』では一転、童謡の如く普遍性を持ったサウンドと言葉たちがやさしい郷愁を呼び起こし、目を潤ませるオーディエンスがいるほど。新曲『うつくしいなまえ』とアーバンに奏でた『GOLD』で、彼らの時間はあっという間に過ぎていった。ジェットコースターのようなめまぐるしさで、老若男女・ファン・初見のオーディエンス…全てを巻き込む極上のひとときをもたらしてくれた彼ら。会場はたくさんのピース・サインで最大の賛辞を贈っていた。
NONA REEVES
「みんな騒いで飲んで踊って下さい!」―そう叫んだのは、続くNONA REEVESの西寺郷太(vo)だ。六甲山を途端にダンス・フロアへと塗り替えた『P-O-P-T-R-A-I-N』に始まり、既にノーナ節はフルスロットル! 軽やかにステップしながら会場をアゲていく西寺は、さながらコンダクターかフロアDJのようだ。続いてセクシーな低音や圧倒的な裏声など歌声を自在に操り『STEP BY STEP』を艶やかにカバーしたかと思えば、会場中にLOVEサインが舞う『LOVE TOGETHER』をぶっ放すなど、フロア・アンセムのオンパレードに! 奥田健介(g)の華麗なソロ・プレイも、さながら往年のギターヒーローかのようだ。ラストには「まさにこの日のために作ったリゾート感満載のナンバーを」(西寺)と、『休もう、ONCE MORE』を紡ぐ彼ら。爽快なメロディに乗せ、最後まで熱く、でも小粋に魅せ、ショーマン・シップに満ちたステージとなった。
Johnsons Motorcar
出演ラインナップの中でも、彼らはひときわ異彩を放っていたといえるのではないだろうか。アイルランドやスコットランド、さらには紅一点の日本人ドラマーを擁する、国際色豊かなJohnsons Motorcarが登場! OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDのメンバーであるマーティン・ジョンソン(vl&vo;)を中心とし、2003年より活動している彼ら。持ち味である屈強なアイリッシュ・サウンドは、初めましてのオーディエンスもお構いなしに巻き込んでいく。一気に場の空気をかっさらっていく様は何とも痛快だ。ハイ・スピードでまくし立てるヴァイオリンの音色は哀愁を漂わせつつも、どこかご陽気。『You are We are』『Botany Bay』と間髪入れずエネルギッシュにプレイする中、MCでは「こんなに素敵な会場は初めて! みんな最後までよろしくね」と満面のスマイルを浮かべる彼ら。ラストの『Beggar Man』までの8曲、メンバーも全速力、オーディエンスもそれに応えるかのように全速力。音楽で通じ合うとはこのことかという、濃密なステージに笑顔が溢れたひとときだった。
Caravan
今年は晴天も続き、例年の悪天候の中でのライブも避けられるかと思いきや…! Johnsons Motorcarが終了するや徐々に黒雲に包まれていく中、続いてはCaravanだ。“ミスターROKKO SUN MUSIC”とでも称すべき、初年度から皆勤賞の彼。サポートを務める堀江博久(key)いわく、「毎年、雨を呼ぶ男」。その言葉に偽りなく、1曲目『WAGON』の歌詞にあるような、恵みの雨を連れてきてくれた。準備万端のオーディエンスは、レインコートに身を包んだり、気持ちよさそうに雨に打たれたり。各々、自然ごと楽しむその姿はこのイベントならではだ。陽光が差すようなグッドムードの『Soul Music』など大地のにおいを醸し出すアコースティック・サウンドは、日々の素晴らしさを彩っていく。シンガロングを促すときの「適当でいいからね、ラララで」との一言や、「やっぱりライブだよ、忘れられない日にして下さい」との言葉など、随所に自然体でライブを楽しんでほしい、というシンプルなCaravanの思いが伝わってくる。彼のこういった姿勢こそ、『ROKKO SUN MUSIC』の根源でもあるのだろう。そんな“ミスターROKKO SUN”の貫禄のステージを経て、いよいよ宴はクライマックスへ!
在日ファンク
すっかり会場は雨模様の中、雷鳴まで鳴り響き、少し遅れての登場となった在日ファンクの面々。そろいのスーツに身を包んだプレイヤー陣が、ズラリとステージに立ち並ぶ。曲が始まるや、ひとりグレーのスーツ姿でセンターに登場したハマケンこと浜野謙太(vo)は華麗にターンをキめ、まず『ジェントロダクション』をお見舞い! タイトなリズムとトボけた歌詞のギャップが何だかむずがゆくもあり、最高にクールでもあり。ムーディなホーン隊が色っぽい『嘘』や、しばらく頭の中を占拠する『むくみ』と、ファンク愛たっぷりにパフォーマンスする彼ら。マイクスタンドを自在に操るハマケンも、ファンクの高祖と仰ぐジェームス・ブラウンばりのステップで魅せ(たまに滑ったり?)、その度に大歓声を生み出していく。彼の一挙手一投足から目が離せないのだ。『爆弾こわい』で本編ラストを迎えた直後、鳴り止まないアンコールに応えてくれた彼ら。「大雨だけど大成功じゃない!?」(浜野)との言葉に会場中が大きくうなずく中、正真正銘のラスト・ナンバー『傷』で大団円へ! 雨がドラマチックさを際立たせ、より艶やかな男くさいファンクで締めくくってくれた。晴天のスタート~大雨のエンディングと、やっぱり一筋縄ではないかない『ROKKO SUN MUSIC』。次回はどんなドラマをもたらしてくれるのか? 来年もまたここで会いたい、そんな言葉が聞こえてきそうなほど、終演後のオーディエンスの表情はキラキラ輝いていたのが印象的だった。