ROKKO SUN MUSIC 2016の初日は、別世界のように真っ白!というほどの霧が立ち込める山らしい天気。そんななかでも開場前から列を作り開場を待つ人の姿には、このフェスが愛されていることを感じる。そしてついに11:00開場。観客が入り始め30分ほどたった頃、「ROKKO SUN MUSICにいらっしゃ~い!」と明るい声と共にステージ現れたのがROKKO SUN MUSIC常連、大坂出身の酒井ヒロキだ。不思議とその瞬間には日が射すのだから、そのパワーは計り知れない。まずは『ゴールデンフルーツ』でご機嫌にスタート。ギターの音と飾らない歌声が脳にじわっと染み込んでいくよう。すっきりした頭に、ハッピームード漂う次の『スタート&エンド』でエネルギーチャージすると、「安定の霧景色、最高です(笑)』と、さすが常連の発言で盛り上げ、最後は『ドリーマーズ ソング』で本編への期待を音楽で昇華。会場も温まり準備完了!と言った具合でオープニングを飾った。
本編トップバッターは地元・神戸発の4人組 、The fin.。UK、アジアツアーを行うなど、国内外から注目を集める彼らが『Illumination』を響かせると、続々とステージ前に人が集まる。きらめく80~90年代シンセポップの雰囲気を漂わせるナンバーに観客は心地良く揺れ、『The End Of The Island』では小気味よくウェットなボーカルに早くも酔わされる。そして「新曲を持ってきました」(Yuto Uchino、Vo&Syn&G)と『Pale Blue』を披露。異次元を思わせる音楽は曲名どおりの淡くはかなげな世界を作り、霧がかった会場になじむ。さらに『Anchorless Ship』の水音のようなサウンドは心をほぐし、ROKKO SUN MUSICのゆるい空気感を増長。加えて、なでるようなファルセットの歌声とどっしりとしたドラムとベースが絡み合う『Night Time』では人々の揺れも大きくなり、それぞれが自由に踊り出す。まるでThe fin.が案内人を務める浮遊感たっぷりのショートトリップのようだった。
リハーサルから「ココドコ?」「ロッコー」とアドリブで余裕を見せ付けたのが、鈴木惣一朗(ワールドスタンダード)と直枝政広(カーネーション)によるユニット、Soggy Cheerios。サポートはギターに平泉光司、ベースに伊賀航(共にbenzo)と、各自が90年代の日本のポップ、ファンクを彩ったベテランたちによるステージは『ぼくはイノシシ』から。干支をなぞるユニークな詞だが、深みあるコーラスと泣かせるバンジョーの音色が魔法のようにムーディに仕立てる。『趣味週間』の折り重なるギターと大人の歌声も、このメンバーならではの濃厚な空間を生み出す。『かぜよふけ うみよなけ』では、自然と体が動き口ずさみたくなるようなゆとりのポップ&ファンクで気分は自然と上向きに。しかも最後は、森繁久彌の音頭『とんかつの唄』のカバー。これをROKKO SUN MUSICでビシッと決められるのは、キャリアあるメンバーぞろいだからこそ。大人の“のりしろ”は実に圧巻だった。
この日リハーサルからオーディエンスに歓声を上げさせたのは、初ジャパンツアー中のノルウェーから来たシンセ・ポップの新星、Kid Astray。今回はデビューアルバム『Home Before the Dark』を携えての登場だ。まずはあいさつ代わりとばかりに『Back To The Ordinary』のキラキラとしてみずみずしいミディアムダンスチューンでいっきに観客のハートをわしづかみにすると、ぶれることなく次々にカラフルでキャッチーでダンサブルなナンバーを連発。ハイトーンコーラスに重めのベースが重なる『Diver』には、まさに深く音の世界に潜るような感覚を覚え「FuFu!」のコールも。軽快な『It's Alright』ではクラップ&ジャンプで会場が一つになり、キレあるテクノポップの『No Easy Way Out』では、フリーマイクで煽るBenjamin Görtz(Vo)に踊らされる。ダメ押しの『The Mess』で爽快感もマックスに。霧の六甲山を瞬く間にダンスフロアへと変えたパフォーマンスだった。
同じく、リハーサルから本番?という盛り上がりを見せたのが8otto。まずは『SRKEEN』のメロディアスなサビと腹にくるリズムで楽しませると、走るギター&ドラムで観客のテンションをいっきに上げる新曲を披露。それは観客だけではなかったようで、Maenosono Masaki(Dr&Vo)はステージを降りたかと思うと、走り出しついには会場最後部に到達! するとすかさずMCで「背の高いモジャモジャが走り回るスタイルの8ottoです」(TORA、Ba)と笑わせ、さすがライブバンド!のゆとりを見せる。そしてさらなる新曲も披露。歌うギターでゆるくのせる夏フェスらしいナンバーに高揚感が広がり、「しゃがんでボーンッ!ってやつ」(TORA)と『Say』へ。言葉どおり曲頭から弾ける爽快なナンバーは六甲山頭上を走る雲にぴったりで気分も上々。もちろん、最後はいつもの「楽しい今をありがとう!」(Maenosono)で締める。こちらこそありがとうの気持ちになったのは言うまでもない。
後半戦、ハンバート ハンバートの登場で沸騰した会場はいっきにまったりモードへ。曲前の2人のトークももはや音楽の一部?と感じるほど、その地続きののんびり感は圧倒的。吉田拓郎『結婚しようよ』、電気グルーヴ『N.O.』と時代を超えて愛される名曲のカバーからというのも、なんとも気が利く。そして、歌声がどこまでも透明に優しく響く『おなじ話』には、まったりを超えてグッとくるものが。かと思えばアイリッシュテイストの『ホンマツテントウ虫~安里屋ユンタ』では、リズミカルなバイオリンと鈴が転がるように軽やかなボーカルに楽しさがあふれ出す。ラストの『おいらの舟』からはパワーをもらい、今この場所に居られることがとても貴重なことだと実感する。トリを飾ったOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDのTOSHI-LOWに「ハンバート ハンバートに感動しちゃって…」と言わしめたことからも2人のステージのすばらしさがわかるだろう。
肌寒さを感じる16:30頃、熱を運んできたのが大阪発インストゥルメンタルバンド、Sawagi。次々に表情を変えるアグレッシブな『fuss uppers』、エレクトロ感満載でどこかゴシックの空気もある『TEMPEST』で、最初からトップスピードで会場をリードする。リハーサルから「めっちゃ地元やな~」(nico、Dr)と聞こえてきたとおり、MCでは「コイチ(Key)が彼女とドライブ中にジャズの練習し過ぎてふられたのって六甲山やんな(笑)?」(nico)、「彼女が変わる度に(六甲山に)来てたよ(笑)」(コイチ)と、地元ならではのエピソードを暴露。当然、地元愛でプレイにも力がこもり「踊れる準備できてますか? 騒げ~!」(雲丹亀、Ba)と『ibiza』が始まればタイミング良く強い風が吹き、観客はクラブ状態でダンス。さらに刻む鍵盤にゾクゾクさせられる『SUPER CITY』でジャンプ連続。これが気持ち良くないわけがないという恍惚の境地に達した。
1日目のトリ、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDは「ミナサン、オリテキテクダサ~イ(笑)」(MARTIN、Vo&Vn&G)、「ミナサン、カタヅケをヤメテクダサ~イ(笑)」(TOSHI-LOW、Vo&G)と帰り支度をする人たちにユーモアたっぷりに呼びかけ、『Thank You』からゆったりと。温かいアコースティックギターの音色と歌声が、霧が濃くなり寒さを増した会場に温度を取り戻す。さらに『Broken Glass』のまくし立てるサビでワクワク感を演出し、情熱的で疾走感あふれるバイオリンが印象的な『Bamboo leaf boat』で会場の興奮をピークへ誘う。そしてラストは童謡ように心の奥に入ってくる『朝焼けの歌』。聴く者の心に熱い塊を残し、6人は舞台を後にした…が、もちろんアンコールで再登場! ドラマチックな『Making Time』で、まだ足りない!という観客をもう一度沸き立たせると、予定になかったという躍動感ある『Squall』のおまけまで。満腹!満足!の大団円を迎えた。
2日目は朝から快晴! 昨日の肌寒さがウソのように、夏を感じる気温の高さだ。すでに常連さんばかりだと思えるお客さんのゆるやかな入場の中、「ロッコーサン♪ はじまるよ~♪」と即興ソングで現れたのは昨日に引き続いて酒井ヒロキ。「Welcome ACTとして登場したからには、続々と来られている皆さまがビールや飲み物をゲットするまで演奏してますよ~」と、さすがのこなれたMCでこのイベントのお出迎えにもふさわしい心が穏やになるような楽曲を、温かく伸びのある歌声で披露していく。ラストに披露された『ドリーマーズ ソング』はサビの部分が合唱できるようになっており、「練習しますよ、皆さん歌ってくれますか~」とオーディエンスも交えた大合唱で一体感を高め…。「ROKKO SUN MUSICはじまりますよ~!」の掛け声のもと、2日目のフリーダムな夏恒例の宴がスタートをきった。
お揃いの紺色のジャケットを着用した5人組、「東京から来ました兵庫県出身のヒラオコジョー・ザ・グループサウンズです」の通称〝ヒラオコ″がステージに。甘酸っぱく、ほどよく繊細な楽曲群がなんともさわやかで夏の炎天下にもぴったりだ。まるでCM曲にも起用されていそうなほど普遍的でキャッチーなナンバーに、オーディエンスが次々に前へ前へと集まってくる。「学校をさぼったおかげで1人の女性と出会い、恋に落ちたんですけど(笑)。その時言えなかった、君が好きって言葉をこの六甲山頂で言いたいと思います!」と『凸凹』が披露されるころには、ノリノリのオーディエンスが思い思いに踊り体を揺らす光景も。「兄貴の影響でバンドをはじめて、あれからずっと音楽を続けてきたからこそ、このステージに立てているので、中学1年の頃の自分に「お前は間違ってねえぞ」と伝えたいです」と語り『ヒーロー』も。心がセンチメンタルにそして温かくなる瞬間を感じることもできた、笑顔溢れるハッピーな時間だった。
続いての登場はシンガーソングライターのPredawn。転換時から観客が前へと集まりだす。独特のウィスパーでピュアな歌声、ギターを手にした凛とした佇まいに目が耳が釘付けになる。「すごくいい天気になりましたね。晴れ女にかかればこんなもんだと思います(笑)」と終始はにかみながらのMCもほほえましい。「みんなちゃんと寝れました? 私は最近寝るのが苦手で…今、ちょっと眠たいです」と語り披露された不眠症の歌『Insomniac』や、この日唯一の日本詞の楽曲『霞草』などもヒーリング要素を含んでいるかのように聴き心地がよく、体が潤い癒されてゆくようだ。時折ふく風に乗り響く歌声はまろかやで、軽やかで繊細なギターの音色と儚さをまとう雰囲気に淡く優しい夢を見させてくれる、そんなリラックスできる自然体のステージだった。
「この時間、みなさんの夏のグルーヴに乗っていきたいと思います」と自然と沸き起こるハンドクラップと共に登場したファンキー・グルーヴ・マスター、韻シストが次なるアクト。六甲山特有の霧の中でのステージも経験がある彼ら。「霧で何も見えなかった時もあるけど、今日は晴れてていい感じじゃないですか~?」と、開放感満点のノリと厚みのあるグルーヴでオーディエスを上げに上げていく。『一丁あがり』でのお決まりのコール&レスポンスも分かりやすく、初見でも楽しみやすい。6月リリースの新作『CLASIXX』から『Theme of CLASSIX』『PARTY SIX』『ひょっとしたら』のバリエーションに富んだナンバーの披露もあり、『neighborhood』では手を高々と掲げ体を揺らしながら応えるオーディエンスたち。安定感のあるサウンドと抜群の高揚感を堪能し、メンバーも「今年が一番楽しかったぞ、ROKKO SUN‼」と言い切るほどの盛り上がりをみせたグルーヴィーなひとときだった。
「これから始まる大盛りライブ♪」となんともユニークなラップでスタートさせたのは、DJみそしるとMCごはん。「神戸のフェスに来るのは今日が初めてです!」との言葉通り、関西でのライブがあまりない愛称“おみそはん”だが、NHK Eテレの“音楽×料理”番組「ごちそんぐDJ」などで彼女を知っているオーディエンスはたくさんいたようで、ノリどころがバッチリだ。『きゅうりのキューちゃん』や『ブリ大根』『アスパラベーコン』など、料理名や調理のリリックは、なんとも楽しくアッという間に覚えられそうなため、料理上手にもなれるかも♪ お客さんからの相談にのるという「食いモンドウ(苦手編)」のコーナーでは、「キウイフルーツ」や「のど飴」といった難易度高めのレスポンスにも、好きな食べ物になるよう適格(!?)にアドバイスをする姿も。これぞプロフェッショナル!と呼べる表現力豊かなパフォーマンスはお見事です。
後半戦のはじまりを告げるかのような熱を帯びたサウンドが轟く。3ピースロックバンド、LOSTAGEが登場だ。「太陽の光が苦手なんですよね。俺らおかしない(笑)? なんか恥ずかしくなってくるんですよね」(五味・vo&b)。確かに、ロックバンドが集結する夏フェスならともかく、『ROKKO SUN MUSIC』ではなかなか味わえないソリッドかつダイナミックなバンドサウンド、突き刺さるようなボーカルは斬新で刺激的な体験だ。しかしながら「韻シストの時にステージ袖から観てたんやけど、楽しそうやし俺らもあんな風にやりたいなって(笑)。地下でずっと活動してたから、コール&レスポンスとか本当はやりたいんですよね」や会場の独特の雰囲気を「ゆるくてイイですね。俺らも子供連れて来たらよかったな」と、ライブでは初めてとも思える子供の話も飛び出すなど、何ともアットホームなゆる~い雰囲気にご満悦な様子も。気温の高さとオーディエンスの熱気が相乗効果となり圧倒的な存在感を放っていた。
ほぼMCなしの圧巻のライブアクトを披露してくれたのは、OGRE YOU ASSHOLE。彼らの楽曲には、拳を上げ一緒に熱唱するような明確な躍動感はないのかもしれないが、不思議と湧き上がる高揚感と熱量に心も体も揺れ動かされる。出戸(vo&g)の響きのあるハイトーンボイスに、ポストパンク、サイケからプログレ、AORなどを見事なまでに昇華した一筋縄ではいかないサウンド、反復するビート、力のあるグルーヴ…。まさに静と動が共存し描かれる美しいサウンドスケープは心をうっとりと酔わせる魅力を放つ。どこまでも深い深いところへと誘ってくれるような世界観はその場所、その時々で様々な色と表情を見せ、音楽は自由なんだということを心底感じさせてくれる。もちろん、良い意味でつかみどころのないバンドのポテンシャルに、まだまだ底知れぬ凄みを見せつけられた気がした。
そしていよいよ2DAYSの大トリ、ROKKO SUN MUSICといえばのCaravanの出番が! 彼といえばお天気の具合も毎年心配されるところだが、今年はついに快晴‼ これには本人も少々びっくりしたようで「めっちゃ晴れてるね! 霧のイメージできたので、見晴らしよすぎて恥ずかしいわ(笑)。かつてこんなに晴れているROKKO SUNあったんですか? 大好きな場所に戻って来られて嬉しいです」と笑顔で話す一幕も。キーボードとの2人編成で繰り出されるサウンドは、奥行きと豊な表情をもつ彼の歌声と力強くも優しくそっと背中を押してくれるようなメロディが一体となり、2人とは思えないほど音の幅が広く華のあるステージを披露してくれる。さらに途中のMCで本人も話していたが、彼の野外ライブはついついお酒が飲みたくなるという魅力も(笑)。解放的な雰囲気をより満喫するべく、美酒と美音に酔いしれようと体が欲しているかのようだ。少々時間も押していたが、鳴りやまない歓声に「もう少しだけいいっていってもらったので」と嬉しいアンコールの披露も! 自然の中でピースフルな一体感を存分に感じる、優しさに満ちたステージが大拍手とともに幕を閉じた。